アントレプレナー、作家、西武文理大学特命教授
小川和也
起源を18世紀にまで遡る大数の法則、さらに古代ローマのコレギウム、中世ヨーロッパのギルド。明治維新の時に始まった今日の日本の保険制度には、それまでの歴史が積み重ねて来た多くの礎がある。
言わずもがな、保険は偶発的な事故によって生じた損害を埋め合わせるための仕組みであり、その背景には何らかのリスクが存在する。このリスクは、われわれが生息する地球、社会環境によって常に変動を続けている。ゆえに、このリスクの変動もしくは変動の予兆を的確に捉え、それに応じた保険のあり方を追求して行く必要がある。
私が損害保険会社(安田火災海上保険、現損保ジャパン日本興亜)に勤務していた1995年〜2004年と現在、そしてこれからの未来が人間をとりまくリスクは明らかに違う。拙書「デジタルは人間を奪うのか」(講談社現代新書)において、デジタルテクノロジーが進化していく社会の中で、人間には新たなリスクが覆いかぶさってくることに警鐘を鳴らしている。2040年にはおよそ75%が自動運転車になるという予測もあるが、それに伴い自動運転車を対象とした新たなサイバー攻撃のリスクが生じる。たとえば、犯罪者によりプログラムが変更され、自動車爆弾として使われてしまうような恐れなどが指摘されている。
自動車に限らず、サイバー攻撃のリスクは急速に高まっており、米McAfeeと米シンクタンクの戦略国際問題研究所が2014年6月9日に発表した推計によると、サイバー犯罪がもたらす経済損失が世界で年間最大5750億ドルにも上がるとしている。さらには人間の能力を超えるような人工知能やロボットの開発、人体とコンピュータを接続するような試みが進んでいるが、テクノロジーの進化と表裏一体のリスクが多数生じることになる。
意識すべきは、人間をとりまく環境、それに付随するリスクの変化は想像以上に速いということである。そのリスクをカバーするための保険であるからこそ、リスクの変化のスピードに置いてきぼりになることなく、むしろ先回りしていく必要があると考えている。