「日本版ライドシェア」の開始と保険業の役割

慶應義塾大学商学部講師
内藤 和美

 
 

 いよいよ日本でもライドシェアを限定的に解禁する「日本版ライドシェア」が4月から開始されることになりました。ライドシェアとは、自動車に関わるシェアリングサービスの1つで、一般のドライバーが運転する自家用車に希望者を同乗させるサービスであり、「移動のシェア」といえます。

 

 ライドシェアには、営利目的のライドシェア(配車サービス型ライドシェア)と非営利目的のライドシェア(相乗り型ライドシェア)があります。海外では配車サービス型ライドシェアが普及しており、米国のUber TechnologiesやLyft、中国のDidi Chuxing(滴滴出行)、シンガポールのGrabなどが提供するライドシェア・サービスが代表例です。一方、日本では、道路運送法78条が自家用車による有償での運送を「白タク行為」として原則禁止しているため、配車サービス型ライドシェア(以下、ライドシェア)は認められていませんでした。

 

 ところが、近年、タクシーやバスなどのドライバー不足が社会問題化する中で、訪日外国人旅行者数の回復により移動需要は増加しており、日本でもライドシェア解禁に向けた機運が一気に高まることになりました。2023年12月に公表された「デジタル行財政改革会議 中間とりまとめ」によれば、日本版ライドシェアは、「タクシー事業者が運営主体となり、地域の自家用車・ドライバーを活用し、アプリによる配車とタクシー運賃の収受が可能な運送サービスを2024年4月から提供する」制度としてスタートすることになります。

 

 ライドシェアには、ドライバーが不足する状況や「交通空白地域」での移動手段の確保、スマホの配車アプリでドライバーと利用希望者をマッチングさせることによる利便性の向上、一般ドライバーによる収入確保の機会の拡大などのメリットがあります。また、移動手段を確保できることは健康につながり、人々の幸福度(ウェルビーイング)を高めることに貢献するとの指摘もなされています。その一方で、諸外国の事例を見ると、ライドシェアが普及する段階では、ドライバーによる犯罪や車両の整備不良、交通事故時の対応をめぐるトラブルなどが発生し、利用者の安全性確保の問題が浮き彫りになりました。そのため、日本でライドシェアを健全に普及・発展させるためには、利用者の安全性確保が重要な課題であるといえます。

 

 ライドシェアに関する保険業の取組みとしては、従来、限定的に自家用車による有償旅客運送を認めてきた「自家用有償旅客運送制度」に対応する専用の自動車保険が開発・販売されています。具体的には、事故発生時に、運転手とともに市町村やNPO法人等の事業者も損害賠償責任を負担しなければならない場合に、運転手の自動車保険では不足する補償を事業者向けの保険として提供するものです。

 

 今後、日本版ライドシェアの解禁に伴い、サービスの提供者が安全に制度を運用し、かつ、利用者が安心してサービスを利用するためには、保険による補償機能が欠かせません。保険業界には、ライドシェアの普及と発展を後押しする役割が一層期待されるものと思います。

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