サステナビリティと保険業の社会的責任

慶應義塾保険学会理事長
堀田一吉

 

 

 新年あけましておめでとうございます。このところ、1年があっという間に過ぎ去ってしまい焦燥感に襲われていますが、振り返ると昨年も、世界中で自然災害の多い年だったという印象が残っています。カナダやハワイの山火事や、ヨーロッパや北アフリカの洪水、オーストラリアの干ばつなど、大きな被害が発生し、多くの人々の生活が脅かされました。地球温暖化による影響は、確実に人類存亡の危機に瀕しています。

 

 こうした中で、昨年11月には、UAE(アラブ首長国連邦)のドバイで、COP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)が開催されました。ここで、パリ協定の目的達成に向けた世界全体の進捗を評価するGST(グローバル・ストックテイク)や、ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)に対応するための基金創設などが採択され、世界が協力して危機に向かって進むことが示されました。

 

 かつて、日本経済が好調な1980年代初め頃は、企業メセナとかフィランソロピーというブームの中で、様々な社会還元がなされましたが、それもバブル崩壊とともに冷め切ってしまいました。2000年を過ぎたころに、環境問題が取り上げられる中で、企業の社会的責任(CSR)が意識されるようになってきました。これがさらに発展して、2015年に国連が採択したSDGs(持続可能な開発目標)は、各国政府の主導の下でそれぞれ自発的な目標を立てて取り組むことになりました。その方針に沿った形で、各企業がそれぞれの本業との関りを保ちながら、積極的な取り組みが展開されています。

 

 とりわけ保険業は、本業としての経済社会に存在する様々なリスクのアンダーライター(引受者)であると同時に、機関投資家としてESG(環境・社会・統治)の課題にも深くかかわっています。つまり保険業は、保険契約者や社会に対して、SDGsの実現に大きく貢献できる恵まれた立場にあります。

 

 大手の保険会社は、近年、サステナビリティ最高役員(CSO)を任命して、ステークホルダーからのESG問題に対する要請を高い次元で実現しようとする動きが見られます。それは、サステナビリティに対する明確な意思表示として高く評価すべき取り組みですが、これを単なる一過的なブームとして終わらせないためには、保険業の存在意義を社会に対して常に発信し続ける努力が求められると思います。

 

 慶應義塾保険学会は、これまで産学協同を理念として活動を続けてきましたが、上述のような保険業の果たすべき社会的責任を確認する場でもあります。そうした意識を大切に、本年も皆さんのご支援ご協力とともに活動を続けてまいりたいと思います。

 

 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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