わが国生保の国債投資雑感

明治安田システム・テクノロジー 会長

本学会常務理事        髙松 泰治

 

 

 筆者は1970年代半ば以降、途中5年ほどのブランクはあるものの、昨年に退職するまで生保会社で主に資産運用業務に携わってきた。振り返ってみて、この間いくつかの印象に残るできごとがあったが、そのひとつである国債投資に対する考え方の変化について触れてみたい。

 わが国生保の資産運用の中心は長らく企業向け貸付であったが、1980年代半ば以降貸付のウエイトは低下を続ける一方、国債の比重は上昇傾向をたどり、2000年代半ば以降は貸付を上回る最大の投資対象となった。

 筆者は2000年代の前半の時期を資産運用部門から離れており、2005年に再度資産運用部門に配属となったが、運用部門に戻った当初ショックともいうべきインパクトを受けたのが国債投資する考え方の変化であった。従来の国債投資のスタンスを一言でいえば、金利上昇が見込まれればデュレーション(平均残存期間)を短くして価格下落リスクに備え、金利低下が想定されればデュレーションを長くしてより高いクーポン収入を確保する、というものであった。ところが、2005年に資産運用部門に戻った際、まずレクチャーされたのが、従来の考え方とは逆の、金利上昇が見込まれれば国債のデュレーションを長くし、低下の場合には保有期間を短くするというものであった。従来とは180度異なる対応の仕方にショックを受けた次第。

 5年間のブランクの間に、国債投資の考え方の変化をもたらしたものが、サープラスマネジメント型ALM(資産・負債管理)の実践適用である。1980年代半ば頃から資産と負債を両にらみした管理手法であるALMは導入されていたが、そこでは保険負債が簿価評価のままであるなどいわば初歩的ALMであった。ALMへの取組が進む中で、2000年代に入りより高度化したALMとして登場したのがサープラスマネジメント型ALMである。

 サープラスマネジメント型ALMは、資産と負債を時価で評価し、資産価値から負債価値を差し引いた「サープラス」の最大化、安定化を目指す手法であるが、サープラスに対する影響度が最も大きいのが負債の金利リスクである。超長期という生保負債の特性から生保の負債のデュレーションは資産のデュレーションよりも長いため、金利低下は資産価値の増加以上に負債価値を拡大させ結果としてサープラスの減少を招く。逆に、金利上昇は、負債と資産両サイドの価値を低下させるが、負債のデュレーションがより長いため負債サイドの低下幅のほうが大きく、結果としてサープラスの拡大につながる。こうした考え方を実践適用すれば、おのずと金利上昇時に国債デュレーションの長期化がもたらされる。今では一般化された手法であるが、2005年当時としてはきわめて大きな考え方の変化であった。

 国債は生保サイドからすれば収益性では他の投資対象に比べ見劣りするものの、安全性と流動性の両面で他の投資対象を圧倒するメリットを有し、サープラスマネジメント型ALMを推進する上できわめて使い勝手の良い運用対象である。こうした国債が、わが国財政事情の急速な逼迫化の中で、長期債と超長期債の増発を伴いつつ大量発行されたことも、生保の資産構成における急ピッチな国債のウエイト上昇を必然的に招いたと言えよう。

 生保のALMは今後より高度化されていくとみられるが、サープラスマネジメント的考え方は大きく変わらず、同時に総合的にみて国債を凌駕する投資適格性をもった対象が近い将来現れる可能性は低いと思われるだけに、生保資産運用における国債の主導的地位はしばらくは不動であろう。

 

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