少子高齢化社会とスポーツクラブ

                     常務理事 白瀧 弘

 

 

   生命保険会社の個人営業部門に約30年いた後、関連会社のスポーツクラブ運営会社に出向し5年勤務した。

 スポーツクラブの経営理念の中核は、会員(利用者)の健康維持・増進を図ることであった。これはどこのクラブでも共通した経営理念であろう。

 スポーツクラブ経営は、健康に関する事業であり、また、公共性・福祉性も高いことから1980年代に保険会社は関連事業の一環として経営に乗り出した。その後概ね順調に会員数(利用者)は拡大したが、2008年のリーマンショックを境に会員・利用者は逓減傾向となった。

 興味深いのは、男女とも30~50代の会員(利用者)は不況により減少したが、幼児・学童のスイミングスクール会員(利用者)の減少はみられなかった。家計節約において、子の体育費(教育費)の減少は無く、または後回しにする。まず、優先的に親のおこづかい-健康維持費(スポーツクラブの入会金・月会費)支出が削減されるようである。

 会員(利用者)の減少は、スポーツクラブ経営を圧迫、事業者の撤退となる。残念ながら保険業界でも同事業から撤退した会社も少なくない。

 

 わが国は少子・高齢化社会を迎え、社会、経済にさまざまな課題が生じた。課題の一つ目として、労働人口の減少をとりあげたい。対策として移民政策等種々あるが、ここでは、高齢者活用について述べる。

 大手運送会社等が、高齢者有効活用を企図して賃金水準を65歳まで維持するとの新聞記事が最近掲載された。処遇を改善し、彼等の熟練技術・経験を活かすことは有効なことであろう。しかし、処遇改善だけでは十分とは言えない。それに加えて彼等の高い能力・スキルの維持を図ることである。則ち彼等の体力・気力を老化・弱体化させず、彼等の高い労働力の質を維持することである。具体的には彼等に適切な運動プログラムの提供と栄養・食事指導による健康維持・増進を図ることが重要と考える。

 筆者がいたスポーツクラブは、会員の健康診断結果、および体力に基づき、身長、体重、血圧、運動時心拍数、脂肪量を測定し、個々の会員と打ち合わせを行いオーダーメイドの運動プログラムを作成する。一定期間経過後、再度、体重等上記諸項目を測定。その効果をフォローする。また、食事・栄養面でも管理栄養士による指導も併行して行うプログラムである。インストラクターには高い能力が求められるが、自主的に努力する彼等に対し充実した教育・訓練が行われていた。このスポーツクラブが提供するプログラムのような-個々人の状況(体況)に最適な運動プログラムおよび食事(栄養)指導の提供―対策により高齢者の健康が確保され、能力・スキルが高水準で維持が可能となると考える

 課題の二つ目として、高齢者に対する医療、年金、介護にかかる多額の財政支出をあげたい。高年齢者の同分野への財政支出は人口高齢化により今後も増加に歯止めがかからない。高年齢者の就業による納税、医師からの治療・投薬を必要とせず、健康でバリバリ働くことができれば、医療・介護の財政支出抑制が可能となるであろう。この課題の解決策としても、高齢者の健康維持・増進がその中核となるであろう。

 

    1.労働人口の減少、2. 医療・年金・介護の財政支出抑制。この二つの課題解決策の中心として高齢者の健康維持・増進が重要である旨を述べた。具体的には、スポーツ科学に基づく運動プログラムの提供と食事(栄養)指導により行うと。

 この課題解決の推進主体は政府、自治体は言うに及ばず、国の社会保障を補完する保険業界、就中、生命保険業界は医療、年金、介護を事業領域としているだけに、他業界以上に積極的に取り組むべきと考える。また、各企業も自社のさらなる発展のため、高齢者のスキル、経験、能力を高水準で保つ対策、則ち高齢者の健康維持・増進策をより一層推進することが望まれる。

 

                                      以上

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