中国人の保険意識の変化

明治安田生命 李 鳴

 

三十年前の中国は計画経済の時代(1949年の建国から文化大革命が終息した1977年まで)にあり、都市部の従業員の住宅、年金、医療はすべて所属企業・組織が面倒を見ていました。一方、農村部の農民のほとんどは保険に加入する経済的余裕がありませんでした。それに加え、「養児防老」(子を養って老に備える)という伝統的な思想が強かったため、保険意識どころか、多くの人々は保険とは何かということさえも知りませんでした。

 

実際にあった話ですが、ある企業の総務担当部長は、訪ねてきた保険会社の団体保険営業マンから、保険の話題をもちかけられたところ、「御社では、どのような保険箱(金庫)を販売しているのか。会社の保安員(警備員)を紹介するサービスはないか」と訊ねたそうです。

 

改革開放(1978年)後、中国の保険産業は継続的に著しい発展を遂げ[1]、生命保険料収入のランキングでは世界第5位になりました[2]。保険が社会で普及するにつれて、人々の保険意識も大きく変わりました。今、「貴方は保険に加入していますか」は、挨拶用語としてよく聞かれ、お金を払って安全、安心を求めることは現代生活の基本的な潮流になってきました。「買車、買房、買保険」(マイカー、マイホーム、マイインシュアランス)が現代生活の三大消費となり、中産階級(中流階級)のシンボルともいわれています。

 

他方、民間で「防火、防盗、防保険」という流行語もあります。なぜ火災、盗難と並んで保険が防止の対象とされるのでしょうか。その背景としては、①保険意義に対する誤解(被保険者の死亡を待って保険金を支払われることにまだ違和感があること)、②保険加入者への説明不十分(解約した場合、元本割れになることにつき理解できないこと)、③営業職員の迷惑行為(訪問、迷惑電話が絶えないこと)等が挙げられます。

 

以上から分かるように、中国人の保険意識は総じてまだまだ高い水準に達しているとはいえず、生命保険の浸透率[3]が1.8%に過ぎないこともそれを反映しています。現在、顧客サービスの充実、募集人教育の強化、商品開発の工夫が中国保険業界の主な課題とされています。これによって今後、中国人の保険意識がますます高まることが期待されます。GDPで既に世界第2位、13億人以上の人口を抱える中国が米国・日本を抜いて世界第1位の保険大国になるのも、それほど遠い将来ではないと思われます[4]



[1] 過去30年間の生命保険料収入はほぼ一貫して二桁以上の伸び率で推移。過去10年間は21.0%(日本▲0.7%、米国1.9%。出典:Sigma,Swiss Re 2012年第3号「2011年の世界の保険」および同2002年第6号から算出)。

[2]日本2位、米国1位(出典:Sigma,Swiss Re 2012年第3号「2011年の世界の保険」)。

[3]GDPに対する生命保険料収入の割合で普及の程度を表す指標。2011年は中国1.8%、日本8.8%、米国3.6%(Sigma,Swiss Re 2012年第3号「2011年の世界の保険」)。

[4] 2021 年には生命保険料収入のランキングで中国が日本を抜いて第2 位に躍進する見通し(Sigma,Swiss Re2011 年第5 号「新興市場における保険-成長性と収益性」による)。

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