「中国保険」研究の難しさと面白さ

慶應義塾大学通信教育部 非常勤講師(本学会幹事)

                                       

 

 2010年、中国は日本を抜いて世界第2位の経済大国となった。急速な経済成長を実現したその反面、環境汚染、地域間経済格差、所得格差の拡大など、直面している課題も山積している。中国の経済発展は、独自性をみせており、東アジアモデルやソ連など旧社会主義国家の「ショック療法」的急進性の経済体制転換と異なって、漸進的経済移行と市場開放を主とするため、「中国モデル」とも呼ばれている。

 

 近年、中国経済の研究が盛んになり、日本における研究活動も活発化している。しかし、その中で、保険業を対象とした体系的研究は皆無といっていいほど少なく、空白な状態になっている。 

 2001年のWTO加盟をきっかけに、外資系保険会社による中国市場参入が本格化し、日系保険会社も積極的に現地法人化や合弁会社の設立を図ってきた。このような日中保険会社間の直接的な交流と競争が現実化している背景要因を複眼的に分析し、問題提起を行うことが有意義である。

 

 とくに、中国保険の研究において、その背景要因から生じる特異性を究明することが大切である。つまり、中国は56の民族を有する多民族国家であり、地域別の歴史的・文化的・社会的特性が強い。そのうえ、都市部と農村部に分断された社会経済構造により、社会保障制度も二元的構造となっている。したがって、どのような角度から日中比較分析が可能なのか、常に考えさせられる課題である。

 

 特殊中国事情をふまえた保険研究は刺激的で、日本における関心も高まっている。保険学の勉強について、前掲の田畑先生の「保険で学ぶ」、岡村先生の「保険を通じて自分の興味ある分野を学ぶ」ことの重要性を示されている。したがって、中国の歴史・社会・経済の研究を土台としながら保険制度を分析し、さらには保険の国民経済における位置づけや機能を検討することが重要である。また、保険制度をめぐる日中比較研究の試みを通して、中国と日本の保険学術交流の懸け橋になれたらなと願う次第である。

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