「保険論」講義の現場で思うこと

獨協大学 経済学部教授(本学会常務理事) 岡村 国和

 

 近年、各大学の授業回数が半期15回を目差すようになってきた。文科省の「学士力の向上」を図る諸策の1つであるという。回数さえ増やせば良いのか?という突っ込みはさておいて、学生の質の向上のためには講義の質の向上が王道であるにもかかわらず、これが意外と難しいのが現状である。

 

 近頃の学生は「考える」ことを面倒がるようになってきており、年々その傾向が強まっている。その意味を込めて、私は愛知学院大学の田畑康人教授と共編で『読みながら考える保険論』(2010年)を上梓した。私の基本方針は「難しいことを覚える」よりも「単純ではあっても基礎的なことをきちんと理解すること」であり、「難しいことを易しく、易しいことをより深く説明する」ことである。

 

 これに対し、受講生からは「例をあげて欲しい」と何度も要求される。イメージする能力が低下してきているのかも知れない。私は、勉強するときに大切なことは「なぜ?」であり、この「なぜ?」がないとイメージする気力も萎えてくると説いている。また、短時間でも「事前にレジュメ等に目を通して、今日はここを重点的に聞いてみよう」と目標を定めることもモチベーションを高める方策ですよと付け加えている。

 

 もう一つ、私が保険論の講義で心がけていることは、保険の総合科学性を如何に伝えるかということである。周知のように、保険は、経済学、経営学、統計学、医学、倫理学、社会学、さらにはマーケティング、行動科学、経営戦略論等々極めて広い分野と接合あるいは融合しており、「保険は文化のバロメーター」「保険は人生の縮図」など様々な角度から表現されている。

 

 私は経済学部に所属しているが、学科は経営学科なので、経営学科所属の受講生が多い。受講生はそれぞれのゼミに所属あるいは希望しているため、上記のことを私の講義に結びつけることに腐心している。保険論で産業革命や近代化の話を聞くとは思わなかったなどのコメントは良く目にするが、こちらはもうとうに慣れている。

 

 先に触れた田畑教授は、「保険を学べ」ではなく「保険で学べ」と説いているという。これは素晴らしい考えであると思う。私も私なりに工夫して、個々の受講生が持つ興味やテーマを「私の保険論の講義を通じてどう活かせるのか」を必ず心がけるようお願いしている。私の講義で重要なことは「保険を学ぶ」のは当然として、むしろ「保険の勉強を通じて(自分に興味がある分野で)何が学べたのか」を考えることである。それが人生観や生き様であればなお宜しい。

 

 「(生命)保険は制度か商品か」も素朴ではあるが重要なテーマであり、さらに「相互扶助(の精神)」というスパイスを加えると、「商品(あるいは擬制商品)とは何か」に行き着くのであり、学ぶことの面白さが格段に高まると思う。

 

 まだまだ講義の組立てなどを工夫する余地があるとはいえ、講義に対する受講生の要求は年々増してきており、教員の負担(精神的・物理的)が増してきている。他方、受講生側の負担(多くは授業回数が増えることによる試験範囲の増加)も増加した。

 

 保険は奥が深く、また保険論の授業経営も奥が深いとしみじみ感じる。

 

以上

ページの上部へ戻る