慶應義塾保険学会理事長
堀田一吉
新年あけましておめでとうございます。昨年も、会員の皆様ならびに関係者の皆様のご協力のおかげで、予定通り学会活動を進めることができました。この場を借りて、改めて深く感謝申し上げます。
さて、2025年を迎え、団塊世代が後期高齢期に入ったことで、本格的な超高齢社会が到来しました。いわゆる“2025年問題”は、社会保障問題や労働力不足をはじめとする多くの社会課題をさらに顕在化させることになるでしょう。特に昨年、出生数が70万人を大きく下回り、将来的な人口減少が避けられない現実が、日本社会の未来に深刻な影を落としています。
このような状況下で、保険業界では国内市場の縮小を見据えて、大手保険会社による海外保険会社の大型買収(M&A)が相次いで実現しています。その買収規模は数年前と比較して著しく拡大しており、この動きは国内市場における収益性低下を補うため、収益基盤を海外にシフトさせようとする戦略的な取り組みと捉えられます。同時に、海外保険会社の持つ戦略的なノウハウを取り込むことで、新たなグローバルな保障(補償)の発展可能性が広がることも期待されています。
これらの巨額の買収資金は、戦後の成長期に保険産業が順調に蓄積してきた資金であり、日本国民とともに築き上げてきた資産と見ることができます。言い換えれば、国民が保険業を通じて蓄積してきた財産です。海外収益に重きを置く経営戦略へのシフトは、国内市場の現状を考えれば必然とも言えますが、一方で、日本の成長とともに国民からの信頼を得て成長してきた保険業界には、国内課題の解決に向けたこれまで以上の経営努力が期待されます。さらに、海外展開によって得られた収益が、国民生活の福祉向上のために還元されることを強く望むところです。
高齢者にとっては医療や介護への不安が深刻化している一方、若者世代にも将来に対する経済的不安が高まっています。保険業界は、こうしたリスクに直面する国民の不安を軽減し、安心を提供するという社会的使命を果たすことが求められています。これから訪れる数多くの社会課題への対応は、保険業界にとって新たな使命であり、同時に大きな挑戦でもあります。
保険学会は、こうした将来課題を踏まえて、現在の保険業界の現状と、これからのあるべき姿について議論を深め、学会活動を通じて社会へ発信していく必要があります。このような意識を大切にしつつ、本年も皆様のご支援とご協力をいただきながら活動を進めてまいります。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。