新型コロナウィルス感染症拡大と保険業の役割

慶應義塾大学商学部講師

内藤和美

 

 2021年3月3日時点で、世界の新型コロナ感染者数は114,751,416人と1億人を超え、死者数は2,549,216人にものぼっています。感染者数および死者数が最も多い国は米国で、感染者数は約2,872万人(全世界に占める割合は約25%)、死者数は約52万人(同約20%)となっています。また、国内に目を転じると、新規感染者数は減少傾向にあるものの、そのスピードは鈍化しており、かつ、「病床使用率」や「人口10万人あたりの療養者数」では首都圏を中心に「感染急増段階」とされる「ステージ3」の目安を超えているところがあります(注1)。ようやくワクチンが開発・承認され、各国で接種が開始されていますが、まだまだ予断を許さない状況が続いています。

 

 まさに前例のないパンデミック・リスクの顕在化により、人々の平穏な日常生活が脅かされ、また、企業の事業活動が中断や縮小を余儀なくされる中にあって、日本の保険業界は迅速に顧客のニーズに応じた保険商品・サービスの提供や、顧客や従業員等の安全と利便性を向上させる取組み、さらには社会貢献としての取組み(医療従事者等への支援)を実施しており、改めて保険業が果たす役割の大きさを実感しています。

 

 生命保険業界について見ると、新型コロナウィルス感染症拡大を受けて業界全体としていち早く保険料払込猶予期間延長の特別措置を実施し、最長13か月間の延長がなされています。また、新型コロナウィルス感染症の対応に関する業界ガイドラインの作成および医療従事者や保健所の方々の負担軽減のために給付金等の請求に必要な証明書様式の簡易な書式作成も行われています。さらに、生命保険会社により取扱いは異なりますが、給付金の支払いについて、病院以外(宿泊施設・自宅等)での療養に関しても「みなし入院」として入院給付金の支払い対象とすること、新型コロナウィルス感染症で亡くなった方を災害死亡保険金等の支払い対象とすること、保険契約を利用して契約者の資金ニーズに応える契約者貸付(新規貸付)の利率引下げによる利息減免を実施する会社も多くあります(注2)

 

 損害保険業界でも、自賠責保険(強制保険)の継続契約の締結手続きや保険料の払込みを猶予する特別措置および自賠責保険以外の各種損害保険(火災保険、自動車保険、傷害保険等)について継続契約の手続や保険料の払込みの延長措置が取られました(注3)。また、損害保険会社により補償内容等に違いはあるものの、企業の施設において新型コロナウィルス感染症が発生し、保健所等の指示や命令に基づく施設の消毒等を行った場合の費用や施設の休業による損失を一定の支払限度額まで補償する商品を開発・提供しています。これは、施設で新型コロナウィルス感染症等の感染者が発生して休業を余儀なくされた企業の事業継続をサポートする保険商品と位置付けられます。さらに、個人向けの保険商品(傷害保険、旅行保険等)でも新型コロナウィルス感染症が補償の対象に加えられました(注4)

 

 こうした保険業界の迅速かつ果断な取組みを通して、新型コロナウィルス感染症拡大により個人の生活や企業活動に与えられたマイナスの影響が軽減されたことは明らかであり、保険業の社会的インフラとしての意義が改めて認識される契機になったと言っても過言ではありません。「保険は、その発展過程を通じて「社会化」(socialization)を進展させていった。」と説かれます(注5)。今回の新型コロナウィルス感染症拡大の局面でも、保険業は、保険に加入した多数の個人や企業のリスクを適切に処理することを通して、社会全体としてリスクの共有化を図りもってリスクへ対処するものとして、引き続き重要な社会的使命を有しているといえます。

 

注1:NHKの新型コロナウィルス特設サイトを参照(最終閲覧:2021年3月3日)。

注2:山本朋弥「生命保険業界一体となった新型コロナウィルス感染症の対応」生命保険経営89巻2号、

4頁以下を参照。

注3:日本損害保険協会ウェブサイト「新型コロナウィルスへの対応について」を参照。

注4:損害保険各社のウェブサイトおよびプレスリリースを参照。

注5:堀田一吉(2021)『保険学講義』慶應義塾大学出版会、215頁以下を参照。

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