アクサ生命保険株式会社
戦略プログラムオフィス マネジャー 井上由美子
昨年、40代の友人ががんを患った。幸いなことに外科治療と抗がん剤を終えて、職場に復帰をしている。入院時に見舞った折には(むろん様々な不安や体調の変化もあろうが)、少なくとも元気な顔をみることができたし、退院後も放射線治療を実施していたものの、比較的スムーズに加療を終えての職場復帰にみえた。
しかし先日聞くところによれば、「会社を辞めようか」と悩んでいるらしい。職場では重責を負い、日々多忙なことはあるが、この女性はスキルも能力もあって無事職場に戻ったか、と安心していた矢先だったので、あらためて働く人の闘病と就労について考えさせられた。
当コラムをご覧の保険に携わる方々ならば、一生のうちにがんにかかるのは2人に1人ともいうことや、そのうち3割は働く世代であるらしいという統計情報は、すでにご存じだろう。しかも、がんはたとえば外科的治療などの加療を終えても、外来治療や、少なくとも毎月のフォローアップ・定期検査が必要な病気だ。そしてこれらは5年、10年と続く。体調が良いときもあれば、うまくゆかないこともある。そういった心理的・心身的な負担が大きい病気といえよう。
加えて治療にかかる金銭的な負担もあるため、できることならば仕事を続けていけたらよいと思う。しかしそれが容易でないことも、よくわかる。仕事の継続は、言葉でいうほど簡単なものではないようで、結果として依願退職を選択することになっているがん患者もまだ多いようだ。この10年を振り返っても状況にあまり変化はないことが昨年の「がん患者のおかれている状況と就労支援の現状について」の調査結果にも表れている*(1)。
がんは働きながら共に生きる時代として、「ながら勤務」というキャンペーンも2017年に放送された。
引用すると以下のとおりである。「現代は、働きながらがんと共に生きる時代です。がん患者がはたくことを「ながらワーカー」というワードに置き換え、相談しながら、話し合いながら、通院しながら、治療しながら働くという、現代がん治療のスタイルを伝えていきます。」(*2)。多くの患者がいまだに退職していることから、このキャンペーン誕生となったのだろうと深読みしてしまった。
昨年厚生労働省は、病気を抱える方の治療と仕事の両立支援に関するガイドライン(*3)も出し、企業による対応についてもしっかりと指導を行っている。患者がどうやって職場に戻り就労を継続するか、企業はどのようにサポートや選択肢を提供できるのか、考えるべきことは多い。また、「がん対策基本法」も改正され、がん患者の雇用配慮等が事業主の責務としても明文化されてきているから、それらもふまえて「~ながら」がそれぞれの患者のおかれている状況にフィットして柔軟に選択できたら素晴らしいと願う。
保険業界でも働くための保険、治療のための保険を提供し、お客様が不幸にしてがんを患ったとしても、安心して治療に専念できるようにしている企業が多いと思う。これらは、就業が困難になったときに支援する就業不能保険や所得補償保険をはじめとし、なかにはがんに特化して時短勤務や残業制限期間などに対し療養保険金を提供する場合もあるようだ。
保険会社の使命としてお客様の安心・安全は第一に目指し、たとえ不幸にして病にかかってしまったお客様がいたら、しっかりとよりそい、治療のご負担を少しでも軽くして、治療に専念できるようにサポートし、生き生きと働いて復帰をめざせるような道案内ができることを心から願う。
(1).平成28年12月8日 厚生労働省 健康局 がん・疾病対策室「がん患者のおかれている状況と就労支援の現状について」
(2).2017年度AC支援キャンペーン:ながら勤務 日本対がん協会
(3).平成28年3月28日 厚生労働省労働基準局安全衛生部「病気を抱える方の治療と仕事の両立支援に関するガイドライン」