東京オリンピックとセキュリティ意識

SOMPO リスケアマネジメント㈱ 

上席コンサルタント      徳弘 奈美

(専門分野:スペシャルリスク、リスクファイナンス)

 

 

   東京オリンピックの開催が 2 年後に迫り、競技場の建築、イベント企画さらには、開会式の祝日論議など、私たちは、オリンピック気運の高まりを肌で感じるようになってきた。オリンピックが、私たちを取り巻く第 4 次産業革命といわれる環境変化と相まって、日本の構造や私たちの価値観の変化までもたらすきっかけとなることは、他国の例や前回の東京オリンピックの経験からも明らかだろう。そのような気運の中、筆者は、日本国民のセキュリティ意識も、これを機に大きく変化していくと良いと強く思っている。

 

   昨今、日本では、自然災害の脅威に加えて、国際テロや北朝鮮のミサイルなど、国民のセキュリティに関する比較的新しい懸念材料が発生している。東京オリンピックを控え、これら様々な「リスク」に対して、政府・地方自治体・公共交通機関および各企業それぞれで取組が検討され、対策が講じられている。筆者は、以前実施した、ロンドンオリンピックのセキュリティ対策の調査において、ロンドンオリンピックでテロ対策に従事した知見者と話す機会があった。同オリンピックのセキュリティ対策の基本的な考え方「Business As Usual(BAU)」。つまり、オリンピックを特別なイベントと見なすことなく平時としてとらえ、有事の際は、速やかに特別編成に切り替えられるよう、日頃から体制を準備・訓練をしておくというポリシーである。周知の通り、英国は、100 年以上もテロとの戦いの歴史があるいわばテロ対策の先進国であり、従前からの対応を平時とする考え方も納得できる。また、これに伴い、テロに対する英国国民の心構えも日頃から醸成されている。一方、日本はどうだろうか。ロンドンのノウハウをそのまま東京に当てはめることは、歴史的背景、地理的条件や政治的状況などの違いから必ずしも正しくはないのだが、日本では、「BAU」にあたる平時対応が、英国のそれとは明らかに異なる上に、国民一人ひとりのリスク意識に至っては平時でも決して高いとは言えない。最も卑近な例では、歩きスマホ、電車内での居眠り、不審者や不審物に対する対処方法など、無防備で、見ていてハラハラする事がある。最も、本来は、このような行動に顕れる、性善説を前提とした平和な環境は、喜ばしいと賞賛されるべきかもしれない。しかし、残念ながら、足下の海外情勢を見る限り、性善説は必ずしも美徳ではない。

 

   2015 年以降、海外を中心に急激に増加している国際テロ事件。手法は多様化し、最近は簡易爆弾や車両、ナイフといった身近に手に入る武器を使用する事案が多くなっている。実行犯も単独あるいは少数単位で、日常生活に入り込んでいる。危機管理会社などでは犯人の「プロファイリング」を説き、不審物、「ちょっと違った」行動・身なりをする人物や身の回りの僅かな「異変」に、一人ひとりが早めに気づき、通報し、近寄らないなどの対処をすることが、自らを守る術として喚起されている。日本でも、今や、海外と同様のリスクが高まっていると言われるが、高まったリスクを「平時」と捉える意識改革が、日本にも必要である。来たるイベントにむけたセキュリティ対策の成功の鍵は、国民一人ひとりのリスク意識の向上によるところが大きい。その為の啓発活動に、今後、筆者も時間を割いて行きたいと思う。

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