自動車損害賠償保険と保険業法改正

法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科

(元AIU損害保険株式会社パーソナルライン)

松本研究室 弓達  隆章

 

 本年4月1日に自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)料が改定により引き下げられました。

 

 業界の方は勿論ご存知ですが2008年4月にも大幅に引き下げられております。契約者には保険料引き下げは喜ばしいことです。普通に考えれば、値下げという事は大幅に事故も減り、その結果、保険金支払いが減ったからであろうと想像します。

 

 本年4月の保険料引き下げは、まさにそれが理由でしたが2008年に引き下げが行われており今回は2度目となります。なお2008年の値下げ理由は、事故が減ったことによりものではなく自賠責会計における運用益を還元するのが目的でした。そのため自賠責保険料は値下がりするのに任意保険は、保険会社にもよりますが、継続時に事故がなかったにも関わらず保険料は昨年並みとか、さらには車種や年齢条件によっては若干上昇というお客様もいらっしゃって代理店ではその説明に苦慮されておりました。

 

 損害保険業界の人なら誰もが新人研修時に学習する「自賠法」と「無過失責任」による交通事故被害者救済のための自賠責保険(強制保険)ですが、一般の方からすると何故自賠責保険だけが強制加入で、さらにその他に任意の自動車保険が存在するのか非常に分かりづらいのです。

 

 2016年の新業法開始により任意保険に関しては契約時意向把握(確認)が義務化され、説明不足はなくなったものの、開始以前は自動車購入時や車検時に自賠責・任意保険ともに諸費用に組み込まれているため、その表示はあるものの、何で強制保険と任意の保険に加入しなくてはならないのか分かり難いものでした。

 

 一般的には品物を販売するときには、しっかり説明をし、お客様に理解いただき、そのうえで松竹梅プランの差異を説明し、最終的に選んでいただくのがプロセスであるのに保険の世界はそれが2016年から初めて法律で明記され開始されたわけです。もちろん説明はルールに基づかずにされてはおりましたが、ただでさえ分かり難い内容なのでおそらくお客様の理解度もまちまちであったと想像します。

 

 

 わが国で最初に保険契約が成立・発行されたのは明治14年(1881年)7月18日に明治生命によるものです¹⁾。おそらく販売当初は保険という制度の説明から、支払の条件、契約のメリットさらにはどのような人が会社を運営しているか等、相当な説明をされて契約したものと想像されます。何と約130年間保険業ではその募集に関する明確なルールを規定せずに各々の会社がルールを設け説明する状況で続けられてきたわけで、改めて日本社会全体の秩序の尊さと日本人の道徳感の高さを感じてしまいます。

 

 

 話は戻りますが、自賠責保険は法律に基づき加入が義務付けられた「強制」保険です。

 

 今回の改正保険業法では他の法律により加入を義務つけられて契約として契約意向把握義務の適用外となっております²⁾。

 

 態勢整備とよく言われておりますが保険商品販売の心構えを整えるのであれば、契約者にとり、説明を省略していい商品などあるはずがありません。

 

 法律で規定されると募集ルールの適用除外という事は説明手順実施の除外項目と解釈されがちであるため代理店も保険会社も注意が必要です。コンプライアンスはまさしく遵法ですが、その基本は信頼関係の構築です。私も保険に携わっていたものとして自責の念も込めつつ寄稿させていただいておりますが、分かり難い説明をどう理解してもらえるか?これが今後も保険ビジネス進めていくための大きな課題ではないでしょうか?「適用除外」の文言でそのことを脇に置いたままにならないよう、除外項目こそその説明に注意を払うべきです。

 

以上

 


(注)

1)福沢諭吉と日本の保険業『保険研究』第682016年より

2)募集コンプライアンスガイド「追補版」2016619日 日本損害保険協会より

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