会計監査とは

日本公認会計士協会準会員

                                 吉岡 毅人

 

 私がこのコラムを書いている3月というと、慶應義塾大学の学生時代はゼミ代表だったこともあり、入ゼミ試験や新人歓迎会の準備など、4月から迎える新年度の準備に追われていた。公認会計士として働く今は、12月末決算の会計監査が一段落着いたのも束の間、3月末決算の会計監査に向けての準備や社内新人歓迎イベントの対応などに追われている。こうして見ると、社会人も学生時代も3月は何かと忙しいのは変わっていないようである。

 

 さて、そんな3月を終えて4月に入ると、我々の公認会計士業界ではいわゆる「繁忙期」と呼ばれるシーズンに突入する。そして、このコラムが掲載される5月は、まさに「繁忙期」真只中である。皆様からすると、「繁忙期」と呼ばれるシーズンはあまり馴染がなく、一体どういったシーズンなのか疑問に思われるかもしれない。そこで今回頂戴したこの機会に、公認会計士が「繁忙期」と呼ばれるシーズンにどのような仕事をしているのか、そして私が仕事をするにあたってどのようなことを考えているのかを簡単にご紹介したい。

 

 会計士の主な仕事は財務諸表の監査である。これは私たち会計士だけが行える独占業務である。そのため、私たちは財務諸表上のいわゆる「会計数値」が適正に計上され、開示されているか否かをチェックしている。しかし、私たちは「会計数値」だけをチェックしているのではない。「会計数値」が計上され、開示されるプロセスに対しても理解に努めている。

 

 このように、様々なことと格闘しながら監査を行っているわけだが、私が監査を行う上で強く意識していることが一つある。それは、目の前の会計事象に関して、会社の方からお話を伺い、何があるべき姿なのかをじっくり考えるということである。これは一見当たり前のことであるが、監査という仕事を行う上では極めて重要なことである。監査という言葉を英語に訳すと、「Audit」となるが、この「Audit」という英語は元来「聴く」を意味する。この「聴く」という言葉は、単に会社の方からお話を聞くということではなく、会社の方からお話を聞き、気付き、じっくり理解するという意味である。つまり、監査とは、会社の方の話をじっくり聞いた上で、理解し、公正に判断した上で、意見を述べる仕事なのである。そもそも会計基準や監査基準といった会計や監査を行う際の拠り所として使用する基準の解釈は唯一絶対なものがあるわけではなく、会社が置かれた状況や環境によって変わるものである。だからこそ、会社の方からお話を聞き、会社が置かれた状況や環境を理解したうえで、自分の頭で考えるというのは非常に大事なことであると私は考えている。

 

    学生時代を振り返ってみると、ゼミ代表になってすぐのころ、堀田先生からゼミ代表の仕事で一番大事なことはゼミの同期や先輩・後輩の話を聞き、誠実に対応することだと教えられたことがある。学生から社会人になっても、何かをする上で一番大事なことは話をじっくり聞いた上で、自分の頭で考えるということは変わらないのだなと思った今日この頃である。 

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