インシュアテック時代の到来と保険業の社会的貢献

慶應義塾保険学会理事長

堀田一吉

 

 

 新年あけましておめでとうございます。皆様方のご理解ご支援のおかげで、昨年も、滞りなく学会活動を進めることができました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 ところで、最近、保険金融を取り巻く経営環境の変化は、一段と著しい状況にあります。金融分野では、情報技術(IT)と融合した「フィンテック(Fintech)」という新しい技術が、急速に成長しています。従来、金融機関が担ってきた、決済、融資、株式売買、資産運用などに、IT技術を積極的に取り入れて、新しいビジネスモデルを構築しようという動きです。ビットコインなどの仮想通貨の普及は、将来の金融システムを一変させる可能性が予想されています。

 

 同様に、保険分野でも、「インシュアテック(Insuretech)」と呼ばれる新たな保険ビジネスモデルの研究が進められています。既に、その一部は、テレマティクス自動車保険として、欧米に追従する形で、日本でも導入が始まっています。これは、契約者の自動車にデバイスを取り付けて、アクセルやブレーキ回数やハンドル操作の状況などの情報を取得して、それに基づいて事故リスクを判断し、保険料設定に反映させようという保険です。個別の運転特性をから直接的に反映した保険料設定を目指そうという意味では、確かに、画期的な保険といえるでしょう。

 

 この保険は、低リスクと判断された契約者は、安い保険料で保険に加入できる半面で、危険と判断される運転者は逆に保険料が割高になり、結果的に、保険に加入できなくなる契約者を多数輩出することが危惧されています。これまでの保険会社は、できるだけ多くの契約者を獲得して、全体として収支を確保するビジネスモデルを構築してきました。ところが、今後は、契約者を詳細に選別して、保険会社の利益に貢献しない契約者を排除する方向に進もうとしているかのように見えます。

 

 しかし、われわれが新しい時代を迎えて保険業界が期待されているのは、その技術を生かして現代社会の問題解決に貢献する保険の開発です。例えば、高齢者が引き起こす交通事故は、現代社会の深刻な問題となっていますが、高齢者との共生社会の構築のためには、高齢者向けの自動車保険の開発が望まれます。技術を駆使すれば、高齢者の運転行動を把握して、自動車利用の時間や範囲などに補償制限を設けることで、高齢者に安全運転を促す方法は可能でしょう。あるいは、生命保険でも、保険加入が制限されている人に対して、ウェアラブル端末を利用してリスクコントロールを促すことで、保険引受けを可能にする仕組みも考えられます。

 

 保険業は、これまで人々のさまざまな生活リスクを吸収し、安心と安全の保障を提供してきました。今後、インシュアテックがいかに発展しようとも、それによって、新たな社会不安を作り出すようなことがあってはなりません。インシュアテック時代の到来にあたり、改めて、保険業の社会的貢献のあり方が問われていると、私は考えています。

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