住宅用防災設備等の普及と防火防災教育は両輪のごとく

〔海外の住宅防火対策の実態調査より〕

 

住宅用防災設備等の普及と防火防災教育は両輪のごとく

 ―― 減災へのインセンティブを高めるために ――

 

元東京消防庁職員
清水 眞知子
(現在公益財団法人東京防災救急協会)

 

 

 

 世界に類を見ない日本の高齢化率。火災による死者の約9割は住宅部分から発生し、しかも圧倒的に高齢者が多くなってきています。少子化がさらに進み超高齢社会、一人暮らし高齢者の増加を考えると、明日は我が身のこととして対策を講じるべき時は「今しかない!」と思わずにはいられません。高齢者宅から住宅用火災警報器が「ピィー!ピィー!」と火災を知らせても、一人で消火することも避難することも困難となり、やむなく命が尽きてしまう。このことはこれまでのデータから推測が十分可能であります。


 機会があり、海外の住宅防火と防火防災教育の実態について調査した結果、カナダのバンクーバー市やアメリカの多くの地域では、住宅用火災警報器はどの家庭でもすでに設置済で、住宅用スプリンクラーの法令等による義務化がかなりの勢いで広がりを見せておりました。もちろん水道管直結型が主流ではありましたが、寝室、居室、台所のみならず押入れ、天井裏等細かく張り巡らされ、消防職員がつぶさに検査を実施している場面にも同行させていただきました。それにもかかわらず住宅用スプリンクラーの設置費用が全体の建設コストに占める割合は、わずか1パーセント(10パーセントでは?と疑いましたが)程度とのことです。100~200㎡の住宅が圧倒的のようですが、建設コスト2,000万円の場合でもわずか20万円程度で家全体への設置が可能という現実に、日本は何と住宅防火後進国か!と思い知らされました。


 さらに驚いたのは、小学校3年生の防火・防災教育の授業が年間カリキュラムとして定着しており、実際に自分の家が火災になった場合、どのように行動すべきか、発達段階に応じ、実際に体を動かし、反復訓練により「条件反射的行動」ができる域に達するよう計画されておりました。その授業の一端を拝見させていただきましたのでご紹介します。


 ・ 火災報知機のベル等で火災ではないか?と感じたら、まず早く姿勢を低くし這って避難すること。

 

 ・ 避難する時は、もしベッドの中で眠っていたら姿勢を低く(立ち上がらずに)して這って扉へ行き、ドアノブが熱かったら決して開けてはいけない。反対側の窓から避難しなさい。

 

 ・ もし、火災の炎が自分の衣類に燃え移ったら「ストップ!(立ち止まり)・ドロップ!(床・地面に突っ伏す)・アンドロール!(炎が広がらないよう転がる)」

 

 ・ 火災警報器を手に取り、電池がいのちであり、これを定期的に試験すること。

 

 

 世界に類を見ない高齢化社会の安全・安心を考えると、ハード面とソフト面つまり住宅用火災警報器どころか住宅用スプリンクラー等の普及と、学校におけるカリキュラムとしての防火防災教育の定着化が両輪のごとく推進されることが喫緊の課題ではないかと痛感しました。実際にバンクーバー市では一般住宅へのスプリンクラー条例が施行され、火災による死者は1/10まで減少しました。

 

 さらに、アメリカの火災保険関係企業から住宅向け火災保険と住宅用防災関係機器の関係について概要を教えて頂きました。 住宅用スプリンクラーや火災警報器を設置することにより、保険料がかなり減額されるとのことでした。

 

 日本においても減災へのインセンティブを高めるため、例えば、住宅用スプリンクラーの設置等防火防災対策を講じた人への火災保険料の減額措置が、誰にでも分かり易く積極的に推進されることを期待します。欲を言わせて頂くならば、地域ぐるみで防災設備等の普及率が高まり、防災訓練を積極的に実施している場合等も、基本的な保険料率の見直しがあるとすれば、更なる効果が期待できるのではないでしょうか。

 

 減災に向けた動きが活発になることにより、「わが家の安全は隣の安心」「隣の安全はわが家の安心」。点から線に、線から面に広がり、安全・安心なまちづくりに弾みがつくのではないかと思います。 日本にはトイレや居室、台所等快適な住環境の文化が多くありますが、住宅防火対策に関しても「安全・安心の先進国」でありたいものです。

 

※スプリンクラー作動実験用トレーラーカーは車内で木材等を燃やします。

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