「保険リテラシー」の向上に向けて

公益財団法人 生命保険文化センター

保険研究室調査役 永野 博之

 

   昨今しきりに「○○リテラシー(literacy)」という用語を聞く。私自身が最初に触れたのは今から15年ほど前、PCやインターネットといった情報通信技術を活用できるか否かで経済的格差を生じさせる「デジタルディバイド(情報格差)」が叫ばれた頃に、情報通信技術を活用できる能力を指す言葉として、「情報リテラシー」や「ネットリテラシー」といった用語が扱われていたと記憶している。

   そもそもリテラシーとは「letter(文字)」からの派生語であり、その意味するところは「言語により読み書きできる能力」、すなわち日本語訳では「識字」と言い表されるものである。

   こうした数多ある「○○リテラシー」の中で、最近個人的に多く目にするのが「金融リテラシー」である。「金融リテラシー」とは、「金融に関する知識や情報を正しく理解し、主体的に判断できる能力」をいい、生きていく中で「読み書き能力」が必要であるように、人が生活していく上で欠かせない「お金」に関する知識・判断能力を指す。

   この「金融リテラシー」が注目を浴びるきっかけとなったのが、サブプライムローンやリーマンショックである。これら金融危機の発端の一部には、個々人の金融リテラシーの低さがあるといわれている。そこで2012年にG20で「金融教育のための国家戦略に関するハイレベル原則」が承認され、国レベルで金融経済教育を推進していくことが確認された。その後日本国内においては、金融庁が設置した「金融経済教育研究会」が2013年に公表した「金融経済教育研究会報告書」において、「国民が最低限身に付けるべき金融リテラシー」が示された。さらに、「金融経済教育推進会議」が2014年に公表した「金融リテラシー・マップ」において具体化され、学校教育や社会人、高齢者における金融経済教育に関する統一的なガイドラインが示されるなど、広く浸透していく気配である。

   「金融リテラシー・マップ」には、貯蓄商品や投資商品といった資産形成商品だけにとどまらず、ローンやクレジット、それに当然ながら保険商品も対象に含まれている。

   「貯蓄は三角、保険は四角」に代表されるように、保険商品はリスクに対応する商品であり、他の金融商品とは異なる機能を持つ。さらに生命保険会社の取り扱う商品だけでも掛捨型から貯蓄型、死亡保険から生存保険、医療保険や介護保険といった保障の対象も多岐に亘るなど、商品が複雑でとかく難しいといわれている。そのため、「金融リテラシー」とは一括りにできない、いわば「保険リテラシー」の向上が独自に必要と考えられる。

   「保険リテラシー」を高めるには、保険の仕組みや商品を分かりやすく噛み砕いて説明することもさることながら、実生活の中で如何に保険が役に立つかを理解させることが出発点となるだろう。そのためには、自らが将来どういった生活を送りたいかという生活設計を立て、その中で生じるさまざまな経済的リスクに対応する手段の一つとして、保険の有用性を伝えていくことが必要となると考える。

   私が所属する生命保険文化センターでは、消費者啓発・情報提供活動として生命保険に関する消費者教育に注力しており、中高大学生を対象にする実学講座や社会人向けの学習会、さらには高校の家庭科教師を対象とする勉強会を開催するなど、生活設計やリスク管理の重要性、すなわち「保険リテラシー」の向上に向けた様々な活動を行っている。加えて、大学研究者による「金融・保険リテラシーと保険市場の質」研究会を設け、金融リテラシーや保険リテラシーを有する消費者が保険市場においてどのような行動をとっているのかを探るなど、理論面からも「保険リテラシー」の向上とその効果について捉えようとしている。

   こうした弊センターの様々な取り組みを通じて、私自身も人々の「保険リテラシー」の向上に寄与できるよう腐心していきたいと思っている。

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