ビッグデータ時代の到来と保険業

慶應義塾保険学会理事長 

堀田一吉

 

 

  新年明けましておめでとうございます。昨年は、慶應義塾保険学会と慶應義塾図書館との共催で、特別展示「福澤諭吉と日本の保険業」を開催しました。皆さんのご協力のおかげで、大変に多くの方々にご来場いただき、好評を博することができました。改めて、関係各位に厚く御礼を申し上げます。

 

  この企画を通じて、わが国に保険業を興すにあたり、福澤先生とその門下生の方々の並々ならぬ熱意と尽力には、今更ながら深い感銘を受けました。いつの時代においても、その流れを見極めて、困難に挑戦して新たな時代を切り拓く姿勢が大切であると痛感したところです。

 

  そうした中で、近年、保険業界にいずれ多大な影響を及ぼしそうな動きが見られます。それは、いわゆるビッグデータ時代の到来です。IT(情報技術)の急速な進展により、保険業に関わるリスク情報が様々な形で蓄積できるようになりました。生命保険分野では、遺伝子技術がさらに発展して、保険数理にも影響を及ぼしつつあります。また、昨年は、わが国にも、テレマティクス自動車保険が本格的に導入されました。自動車に搭載された通信機器により、個人の運転行動に関する詳細なデータが把握できるようになりました。

 

  自動車産業では、衝突被害軽減ブレーキやクルーズコントロールなどの先進安全自動車(ASV)が、既に実用化されています。さらに、自動車メーカーは、人工知能(AI)を駆使した完全自動運転に向けて、世界規模で熾烈な開発競争に凌ぎを削っています。そこにおいて自動車によって蓄積される膨大なデータは、保険会社にとっても有益な情報が含まれていると想像できます。

 

  しかし、収集される保険関連データにはプライバシーに関わる個人情報も多く存在しており、それらを取り扱う人々には、これまで以上に崇高な理性と冷静な判断力が求められます。保険業にとって、ビッグデータを有効かつ適正に利用することで、保険を通じた国民福祉の向上に貢献できる可能性もありますが、誤った形で濫用するとかえって社会的混乱をもたらすことになりかねません。

 

  慶應義塾保険学会は、産学協同を基本理念として、保険業に関わる重要な課題を取り上げて、業界と学界との間で相互に議論を深め、その方向性を示すよう努めてきました。これからも各界の知見を集約させて、こうした問題に対して社会への積極的な発信を心がけてまいりたいと思います。

 

  本年も、慶應義塾保険学会へのご理解ご協力をよろしくお願いいたします。

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