じょろうがい

 

 

(株)ジャパンリスクソリューション

代表取締役社長 井上 泉

 

 

 今から20年程前になるが、東京大学名誉教授の木村尚三郎氏(故人)の講演を聴く機会があった。木村先生は西洋史を専門にしながら独特の文明論を語る方であったが、その席上先生は、「これからは『じょろうがい』の時代になります。」と言われたのである。一瞬何のことか分からなかったが、先生の「女性、老人、外人」という説明を聞いてなるほどと得心した。当時は今ほど日本の人口減の問題が強く意識される時代ではなかったから、そんなものかと分かったような気持ちでいたが、最近とみに先生の発言の重みを感じる。人口減が進行する中、わが国の労働力を確保し、日本が活力を維持向上させるために、従来脇役に置かれていた女性、老人、外国人のパワーを見直す動きが現実味を増している。こうした動向は生損を問わず保険の世界にも大きな影響を与えずにはおかないと考えられるが、今回のコラムでは、女性活用、女性活躍の問題に触れてみたい。

  

   総務省統計局の人口推計では、平成26年9月の日本人の人口は、前年同月に比して27万1千人減少している。この数字の重みだが、下関市や水戸市の人口に匹敵する。つまりたった1年で日本の中堅都市の人口が消えているのである。この勢いで人口が減り続けると、4年後には仙台市の人口に相当する100万人が消滅する。そして、厚生労働省の推計では、2060年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は40%に達するという。オーソドックスな経済理論を持ち出すまでもなく、生産の三要素たる資本、土地、労働のうち本源的生産要素の労働が致命的に損なわれる危機をはらんでいるのが今の我が国の実態なのである。そして急激に進む人口減少(労働力減少)の中で、女性労働力の価値を真正面から見直し、日本の成長につなげようというのが安倍内閣の「成長戦略」の柱の一つであった。

  

   しかし、日本の現状は国際的に大きくビハインドしている。女性就業率の国際比較では、日本の25歳~54歳の女性の平均就業率は70%弱と経済協力機構(OECD)加盟国34国中24位にとどまっている。スウェーデン、アイスアンド、ノルウェー、オーストラリア、スロベニア、スイスは80%を超えている。また、内閣府調査によれば、女性管理職の割合は日本の民間企業の場合、課長職以上が7.2%と調査した12カ国のうちの11位という状態である(最下位は韓国)。フィリピン52.7%、米国43%、フランス38.7%、イギリス35.7%と比較してその差は歴然としている。

 

   国際比較の中で日本の劣位の状況を指摘するのはたやすいが、問題はどうやって女性活躍をわが国の中で進めていくかである。勿論女性がすべて外へ出て働かなくてはならないということではない。しかし、高い能力、意欲、健康を持ちながら、出産、育児という勤務上のハンデのためにキャリアをあきらめざるを得ない女性が多いことも事実である。単に育児を夫が手伝うというような矮小化された解決策ではなく、出産や育児があっても女性のキャリア形成の障害としないような企業側の意識改革及び日本全体が男女ともに仕事と家庭を両立できるような柔軟な働き方を進め、長時間労働の削減、年次有給休暇の取得促進など地道な取り組みも今後ますます強めていく必要がある。

 

   最近、女性活躍推進法が成立した。罰則規定はないものの女性管理職登用割合目標を掲げるなど、法的整備も進んできている。また政府内には各企業の役員の女性比率を有価証券報告書に記載させようという動きや女性の登用状況に関する企業情報を総合データベース化することも検討されている。

 

   法律や政府の規制により女性活躍を図るというのも企業としては情けない話であろう。経営を取り巻く環境の変化を踏まえつつ、自分の会社が健全な発展を遂げるためにどのような役割を女性に期待し与えるのか経営自ら主体的に考え実行すべき問題であろう。まさに福沢先生の言う「独立自尊」が女性活躍の面でも発揮されるべきだと考える。(終)

 

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