地球にかける保険(2) ―現物給付という考え方―

慶應義塾保険学会 常務理事 宮内知有

 

地球のリスクに関心を覚えたのは、東京海上火災社で広報業務に携わっていた1999年頃に遡ります。 創業120周年の記念事業を社内公募した結果、地球温暖化の主因とされるCO2の吸収と自然生態系の保全の効果が期待できるマングローブの植林を東南アジア5カ国(フィリピン、タイ、インドネシア、ベトナム、ミャンマー)で3000ヘクタールの海岸に実施する5か年計画を決定しました。

 

樋口公啓社長を団長として女流棋士の吉原由香里さんを広報スタッフに迎え、社員、社員OB,代理店の皆さんと共にベトナムを訪問し、『海の森づくり』と称して植林活動した体験がグローバルリスクの問題に関心を持つきっかけになりました。

 

 

 

本来、保険とは同種のリスクを負担している契約者が大数の法則に基づいて計算された加入保険料を拠出し、偶発的な事故による損失に対してあらかじめ決められたルールで保険金を受け取る経済システムです。一般に保険料と保険金は貨幣で決済されます。被災契約者は、保険金を受け取って被災財物の補てん、そして原状回復を行います。

 

 

 

局地的、局所的被災であれば貨幣による補てんにて、ほとんどの財物は遅滞なく供給され原状回復が可能です。しかしながらグローバルリスクと称される地球規模での災害が発生したときには、貨幣は期待されている機能を著しく低下させることが考えられます。

 

貨幣は信用力と物資への交換力こそが本来の存在価値です。 非常時に貨幣が手元に潤沢に準備されていても、交換の対象となる物資が欠乏していては地球規模で破綻した生活を速やかに回復することは不能です。

 

近年発生している大規模災害を見るにつけ、被災のケースによっては、貨幣ではなく現物(ライフラインである食糧、医療品、水、エネルギー他)の給付が必須となる状況がいずれ到来すると考えるに至りました。

 

保険業界はグローバルリスクに備えて、現物給付による損害の補てんという概念を「第4保険分野」の位置づけで認識し、平時から現物を準備するシステムの構築に注力いただければと考えています。

 

 

 

私は様々なグローバルリスクの中でも食料不足危機の問題を研究したいと考えました。 3年近く前に、西新井にて微生物の活用による土壌改良/吉田式農法を開発している吉田嘉明・行弘さん父子の研究室を訪れたのがきっかけです。

 

現状では耕作不適の土地を土壌改良により耕作可能の大地に転換し、安心で安全な農作物を低コストで増産しようという技術の研究です。

 

国内で、ようやく北海道の黒松内、青森の深浦、福島の相馬、千葉の八街、静岡の朝霧高原でそれぞれ残留農薬、連作障害、塩害、家畜の屎尿問題等で成果をあげることができ農家の皆さんの評価を得られはじめました。

 

 

 

また、1016日から13日間の旅程でイラン高原をバスにて視察してきました。当地は広大な国土にも拘わらず耕作地は限られており、まだまだ農業生産の成長の可能性を強く感じました。

 

国内に限らず、アジアや中東において耕作に問題を抱える農業生産者を支え、少しずつでも食糧生産を増加できればと考えています。

 

遠い道のりですが、地球上に新たな農作物の生産基地を分散して作り、安心で安全な食料の増産により国際紛争を減らし、平和社会の実現の一助になればと西新井の小さな研究室で語り合っています。

 

(ご参考:当学会HP/20131月・「地球にかける保険 CSRのその先に」

 

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