「損害保険会社と消費者目線」

一般社団法人日本損害保険協会 竹井直樹

東北大学経済学部非常勤講師、

広島大学経済学部非常勤講師、

上智大学経済学部非常勤講師 ほか

 

 仕事柄、大学や消費生活相談員向けの講座で講師を務めることが多い。講義に際しては、保険は難しいから、できるだけわかりやすく、そして知識が頭にスムーズに入るよう「消費者目線」を心掛けているが、商品の複雑性はそれをなかなか叶えてはくれない。保険専門用語があること、保険契約に関わる関係者が多いこと、保険法等の法律との関わりが多いことも、講師にとっては悩ましいところである。やりがいがあるともいえるが、配付資料作りをしながら悶々とすることがたびたびある。

 消費者に理解してもらうためには、コンセプトが必要で、これなしに商品説明をしても頭には残らない。コンセプトは、原理原則のようなものだから唯一無二の普遍性のあるものであって、多種多様は逆に理解の妨げになる。しかし、社会、経済の進展による、高度化、成熟化は、この多種多様性を「ダイバシティー」と称し、成熟時代の流れとして重んじるようになった。では、保険の世界において、このダイバシティーをどのように考えるのか。

 保険自由化によって、堰を切ったように一気に商品競争が激化し、商品の複雑性がさらに高まっていった。消費者の多種多様なニーズに対応するために、さまざまな特約が各社各様に作られ、価格競争もあって、消費者利便には一定程度資することとなったが、消費者の商品理解の促進には逆効果になったように思う。消費者にとって面倒見の良い保険、かゆいところに手が届く保険は、商品構成上はより複雑な保険になる。損害保険の主力商品である火災保険(住まいの保険)、自動車保険、そして海外旅行保険はその典型である。いろいろなリスクを補償するということは、商品がそれだけ複雑になり、商品理解をより難しくするということである。この二律背反にどう向き合っていくのか。それは、商品が多種多様であっても、基本的な思想、概念、すなわちコンセプトだけは業界共通にして、シンプルにすることである。換言すれば、商品や事務・システムの枠組みと使用する用語を統一することである。消費者目線をめざすことは業界の効率化にも図りしれないメリットがある。

 ところで、消費者目線は、現場にある。多くの損害保険会社が代理店を通じて保険を販売するビジネスモデルを続ける以上は、損害保険会社と現場にいる消費者との距離はリモートである。消費者目線をめざすためには、このハンディーは大きいし、その克服には知恵を絞る必要がある。業界論理を消費者目線で見直すこと、そのためには消費者は何を理解し、何を理解していないのかを知ることが出発点である。どこで知るか、それは各社の相談・苦情窓口である。損害保険会社が消費者目線を頭ではなく、体で習得するためには、日々、相談・苦情窓口で直接、消費者の声を聴く以外にないのではないか。消費者感覚に晒されることが消費者目線を育む。

 

以上

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