被災地に学ぶ教訓(その2)

                      慶應義塾保険学会常務理事 泉瑞則昭

 

 

東日本大震災の被災地・仙台を訪問して、現地の有識者・被災者の方々から教えていただいた今後の防災対策の在り方・教訓のうち特に印象に残った点について、前回に続きご報告したい。

東北の大都市・仙台が経験したことは、今後首都圏で発生するかもしれない大地震や津波災害の備えにとって、大いに参考になるはずである。

 

 1.自助の強化で災害に備える

大規模災害で重大な被災状況であるほど、ライフライン途絶も長引き、自治体からの物資供給や自衛隊派遣等による「公助」が提供されるまで長い期間がかかる。行政の職員自身とその家族も被災者となるため、「公助」が本格的に機能するまで時間がかかることを想定し、自身で出来うる限りの準備・減災対策を行う必要がある。

非常用備蓄品の充実、水と電気が長期停止した場合のトイレ対策、企業の帰宅困難者対策、飲料水のみでなく、消防・生活用水の確保対策等を具体的に考え、実行しておくことの重要性を過去の大震災が教えている。 家庭や企業の食料備蓄や非常持ち出し品準備や、自治会や事務所ビル単位での避難訓練反復実施等は進みつつあるが、真に実践的で有効かという観点では、まだまだ工夫の余地がある。被災経験に学び、対策の実用性を高めていくべきである。

 

 2.自宅内避難所をいう備え方

東日本大震災の際、仙台地区では、自宅が「一部損壊」で居住可能であってもライフラインの途絶・飲食料不足により、自宅生活困難な被災者が多数発生した。飲食料の無償配給は避難所入居者にしか行われないため、やむなく避難所入居を余儀なくされたのである。公的避難所は食料や毛布の提供という恩恵はあっても、プライバシーはなく、騒音や狭い生活スペース、長期間の入浴不可等、トイレは長蛇の列等で大変なストレスになる。仙台では避難所生活で、3週間近く入浴できなかった被災者もいたと聞く。家族同様のペットも避難所には連れていけない。

この経験から、仙台市役所のホームページでは、防災情報提供ページ「災害に備えて」の中で「自宅内避難所の設置」を提案している。「自宅内避難所」という考え方は、自宅の耐震化を平時から進め、用意した備蓄品を利用して、自宅の「一室」を「避難所」とみなして、しばらく生活できるようにしておくことである。例えば、①自宅の居間などをもっとも広い場所を避難所に指定し、家具の転倒防止やガラスの飛散防止、戸棚の収納物飛び出し防止の措置をし、いざというときも家族が集まり安全に過ごせる空間を確保しておく。 ②ライフラインがストップしても、1~2週間程度は暮らせるように飲食料や炊事用具、燃料、暖房器具、照明器具、ラジオなどの情報入手機器を用意しておく。③そのうえで、寒冷期や酷暑期を選び、週末等にこの自宅内避難所で、「キャンプ」をし、電気・ガス・水道を使わず、自動車も使わず、備蓄品を使用して生活してみて、自宅避難所と非常備蓄等の実効性を検証し、対策の見直しをする。 というのが柱であろう。

この考え方は、家庭の防災体制を強化する上で大変有効で、参考になると思う。また、備蓄品を使用した防災対策検証キャンプは、多数のビル内宿泊者が発生する場合の、企業の帰宅困難者対策にも応用できるのではないか。 

 

以上

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