被災者から学んだ教訓~宮城県の被災地区ヒアリング訪問記~

 

 

                慶應義塾保険学会 常務理事  泉瑞 則昭

 

先般、地震防災を研究し、県民に情報発信を続けている静岡県在住の「消費生活アドバイザー」(経産大臣認定資格)の友人の方々に同行して、宮城県の被災地を訪問し、現地の方々と交流を持つ機会を得た。この際得た教訓を字数が多くなってしまうが、ご報告したい。

 

今回訪問したのは、いずれも宮城県南部の津波被災地で、以下の3か所。

 

1.亘理郡(わたりぐん)亘理町(わたりちょう)の仮設住宅。亘理町は、「東北の湘南」といわれる温暖な地であるが、町の面積の47%が浸水。農地の63%が水没。

 

2.仙台市若林区の荒浜(海岸)地区。 海岸公園として整備され、仙台市民に最も身近な海水浴場がある住宅地であるが、海岸線から4kmまで水没。約800世帯、2700人が住んでいた家屋が流失。すべての建物の土台のみが残る、荒涼とした風景が広がる。海岸近くに設置された慰霊塔に献花。海鳴りが、一瞬にして大津波に命と家を奪われた犠牲者の慟哭のように聞こえる。

 

3.名取市閖上(ゆりあげ)地区。県南部への海産物の供給基地、朝市で有名な「閖上漁港」のある地域。活気のあった漁港が大津波に襲われ、ほぼ更地と化していた。

 

<学んだ教訓>
1.亘理町の工業団地内「仮設住宅」の被災者代表4名へのインタビュー
(1)非常持ち出し用品として最優先すべきは本人確認資料
  現金の引き出しにも、各種救済措置適用を受けるにも、自分がどこの誰であるか証明する書類が必要。印鑑、印鑑登録証明書、住民票、健保証、免許証が最も役に立った。特に印鑑。飲食料は、何とかなる。持病用の薬も2週間分は用意。被災後は手に入らない薬もある。薬手帳も大切。カルテとなる。忘れがちで必需品なのは、歯磨きセットと水無しシャンプー。市販非常持ち出し袋には入れていない。
(2)罹災証明は各種の救済や助成制度申請の基になる。忘れずに取り付ける。

(3)避難の交通手段は自転車 
  自転車は、荷物も運べるし、ガソリンいらずで、すぐ発進でき、渋滞に巻き込まれることも無い。自転車で非常持ち出し袋を携行し、「指定避難所」に避難する訓練を日頃からしている。被災後の情報収集や買い出しにも活躍。家族分用意しておきたい。

 

2.荒浜地区の津波被害想定
 現地案内の「被災地語り部タクシー」運転手からの取材によると、当地の津波被害想定は、海岸線から2kmで、かつ、満潮でなく干潮時を想定していたとのこと。実際の津波は海岸線から倍の4kmまで到達。多くの犠牲者を出した。被害想定は重くするほど対策費用が嵩むので、想定が甘くなったこと、想定を調整したことは無いのであろうか。あえて想定をしなければ、対策責任も負わないということになると恐ろしい気がする。原発も同様のことがあった。
ただ、防災力向上のため、防潮堤をより高く、大きくする等、防災工事で周囲の景観が悪化することもあり、住民の理解が必要である。例えば、京都の嵐山で、先日水害があり、周囲の土産店などが浸水した。十分な護岸工事や、川底を深くすることで水災対策は向上するが、一方で、景観が損なわれ観光地としての価値が下がるため、地元商店街や住民は大規模防災工事には、賛成でないと聞く。 防災は住民の意識・利害を踏まえ、前進させていく必要がある。

 

3.名取市閖上地区
 ここでは、「すぐにここまで津波は来ないだろう。」との思い込みと、自動車による避難を選択した人々が多かったことが要因で、大渋滞に巻き込まれ、身動きが取れないまま、津波を受け、多くの人命が失われた。平時からの避難先や避難方法の周知、自治体の迅速な通報体制構築が課題であることを改めて痛感した。

                   

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