「保険で学ぶ」学生たち

         平成26年1月21日

愛知学院大学教授 田畑康人

 

 

 私が愛知学院大学に保険論担当として赴任して33年が過ぎようとしています。その間ずっと学生たちに訴えきたのは、単に「保険学ぶ」のではなく、「保険学ぶ」ということでした。保険というきわめて特殊で狭い分野であっても、「保険学ぶ」ことによって「日本の政治、経済、社会だけでなく、世界も見えてくる。しかも時には近未来も見えてくる。」と言い続けてきました。この点は本学の講義要項(シラバス)に今も書き続けています。

 私は保険論(保険総論)の他に生命保険論と損害保険論、そしてゼミも担当しています。ゼミ生は受験勉強もまとにしたことがないような偏差値の能力で、「撃墜王田畑、鬼の田畑」の下、耐えに耐え、「保険学ぶとは何か」を体得していきます。中でも夏合宿と冬合宿は格別です。特に後者はジョイントゼミといって、このコラムでもおなじみの獨協大学の岡村先生のゼミナール(2・3年)との報告会です。今回でジョイントゼミは15年目を迎え、昨年は12月7・8日に本学の蓼科セミナーハウスで開催されました。

 獨協大学の報告は3本、テーマは『ジェネリック医薬品の処方一般化~医療費削減のために~』、『インド生命保険市場の経営戦略』、『外来診療における機能分化の推進』というきわめてアカデミックで高度な内容でした。私は相手校の教員として講評も行ったのですが、社会保障の財政、特に医療保険に関する関心の高さには驚かされましたし、インドの生命保険市場に関しては、IT時代の申し子としての情報収集能力には驚嘆し、教師や講義の不要性まで感じたほどです。しかも学生たちはたった25分の報告のために夏休み以前から準備し続けてきたのです。そのパワーポイントをお見せできないのは本当に残念です。

 他方、田畑ゼミの学生たちは人数の関係もあって3年生2本の報告、『俺たちの生命保険販売戦略』と『自動運転と自動車保険~近未来を想定して~』というものでした。アカデミックさはありませんが、やはり彼らも夏合宿終了後3か月間懸命に努力しました。最初は「不払い問題と保険経営・保険政策」とか「巨大リスクと保険」あるいは「パンデミックと保険」など、少し違ったテーマだったのですが、毎週報告を重ねるごとに4年生や他のゼミ生からの質問で撃沈され、方向性を変えながら再浮上しようと努力したのです。決して逃げ惑ったのではありません。狭いテーマで単に保険学んでいると視野も狭くなることに気づき、「保険学ぶとは何か?」という原点回帰が彼らをそうさせたのです。

 このジョイントゼミでは岡村先生と約束していることがあります。それは「教師は、大学での準備段階では、質問はしても、決して教えてはならない」ということです。したがって、学生たちはあらゆる質問に対応できるよう、自分たちの力ですべてやらなければならないのです。

 そのような中で今回の『俺たちの生命保険販売戦略』では「保険博覧会」構想と第三の販売戦略を持つ「ライスフィールド生命保険」の設立構想を打ち出しました。「ライスフィールド」とは「田畑」を英語にしたとのこと、嬉しいやら恥ずかしいやら、その内容をみれば、情けないやら・・・。でも、今までにない何かを見つけ挑戦しようしていました。そして『自動運転と自動車保険』では、きわめて稚拙ですが、完全自動運転自動車普及までの途中段階における新たな自賠責保険と任意保険の可能性を追求していました(ちなみに完全自動運転自動車が全国に完全に普及すれば、自動車自体の構造上の欠陥か異常な故障による事故しか発生せず、その場合はメーカー側の責任問題になると彼らは仮定している)。

 このような恐れを知らない若者たちの新たな発想が、今後はますます大切になると思うのです。ただただ知識を覚え情報を集めるだけの博学が学問であるなら、受験勉強の延長だけで十分です。しかしそのような知識と情報だけではコンピュータにはかないませんし、新たに直面する課題にも対処できないと思うのです。失敗を恐れずアイデアを出し、「ダメだし」されても、諦めずに改善や根本的見直しを行い、その実現可能性に挑戦するからこそ新たな時代に対応できるのではないでしょうか。

 14年前のジョイントゼミだったと思うのですが、田畑ゼミが「ジャパネットタタ」という通販保険会社構想を打ち出したことを、獨協大学OBの石原君(連続14回参加)が思い出さしてくれました。当時はあの社長も「ジャパネットタカタ」も現在のように有名ではありませんでした。しかも保険の通販、特にネット販売専門会社などまったくなかったと思います。しかし学生たちは「こんな新しい方法がある。近いうちに必ず実現し成功する」と訴えていたのです。今回の報告にあった「保険博覧会」も「ライスフィールド生命保険」も「自動運転時代の新自動車保険」も詳しい内容はお伝えできませんが、新たな可能性として皆様の心の片隅に留めておいて頂ければ、「保険で学ぶ」学生としても大いに喜ぶことでしょう。今どきの若者も決して捨てたものではありません。期待して育ててください。

 そして新年、私自身も「もう一度『保険学ぶ』原点回帰を!」という目標を掲げた次第です。今どきの若者たちに負けないように頑張らなければ・・・!

 

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