「安全思想」と「保険思想」

常務理事  泉瑞則昭

 

 

  万が一の、あってはならない最悪の事態、結果も想定した上で、発生する問題と現実的対処策を常日頃から考え抜いて、実行していくのが「安全思想」。

 

  ところが、「想定外」をキーワードにした原発事故が昨年3.11に発生した。あれから1年数か月が経過したが、事故原因の解明に基づく、今後への「教訓」が広く共有されることもなく、かつ、原子力発電に関する政府の中・長期ビジョンが示されることもなく、原発再稼働の決定がされたことで「事故は既に風化したか」と物議を醸している。 

 

  福島原発の事故はなぜ起きたのか、どこに問題があり、リスクのマネジメントは平時どのようになっており、有事にどう進行したのか 、巨大津波のみが原因でない事故原因と問題点が検証されれば、今後の原子力事故にとどまらず各種事故や災害への対応に役立つ貴重な教訓が得られ、安全思想の深化につながる可能性が高い。

 

  3.11の地震、津波災害が発生した後、保険業界は迅速な保険金支払いを旨に業界総力を結集して対応し、社会の付託に応えたが、事故と災害の予防に関するリスク管理ノウハウの蓄積と提供、安全思想の普及についても保険業界がかねてより注力してきた分野である。

 

  当学会が創立60周年を迎えた本年、活動テーマの一つとして、安全思想の普及に取り組み、研究会(公開講演会)等で原発事故の教訓や新エネルギー問題等について情報発信を行い、安全思想の広がり、深化にお役に立ちたい。

 

  また、創立60周年の節目の年、「保険思想」の普及も重要な活動テーマの一つになる。日本に近代的な保険の概念を初めて紹介したのは、慶應義塾の創設者、福澤諭吉先生で、1867年(慶應3年)に「西洋旅案内」の中で、保険の仕組みを広く紹介されたことは良く知られている。以来100年以上が経過し、我が国保険業はご案内のとおり発展を遂げた。また、昨今は消費者向け、学生向けの金融・保険教育も拡充されて来ている。

 

  しかしながら、保険思想紹介から1世紀以上を経た今も、保険業に携わる人の中にさえ積立・貯蓄型でない保険を「掛け捨て」と呼ぶ人が存在し、一般にも保険が「危険を分担」し合う契約であることの認識は薄く、自らに保険事故が発生し、経済的保障を受けなければ保険の効用、仕組みについて理解がされないことが多い。

 

  保険制度は社会に不可欠の制度で、だれもが日常利用しているものだからこそ、保険思想の普及促進につながる活動を、当学会としても改めて、息長く展開して行かなければと考えている。

 

                                   以  上

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