日本経済新聞社 元常務取締役 和田昌親
海外駐在を何度か繰り返し、その都度車を購入したが、ボルボが気に入っている。自動車保険を使わなくてもいいほど「強い」と信じたからだ。
最初はブラジルで中古フォード、次はアメリカで新車ボルボ、その次は英国で中古ベンツに乗った。その後帰国し、日本では新車ボルボを愛用している。
アメリカで驚きの経験をした。コネチカット州でわが家のボルボが追突された。交差点だったから大した事故ではない、と思った。ところが相手にとっては大事故だった。こちらの後方バンパーはほとんど無傷だが、ぶつけたアメ車の方は前方が大きくめくれ上がり無残な姿をさらしていた。
アメリカのガレージの自動シャッターは閉鎖時に硬い物があると止まることになっているが、実際は不良品が多く、強く閉まり続ける。もし人間が挟まれれば大事故につながる。ご近所のボルボがシャッターに挟まり、ぎりぎりと締め付けられたが、車は無傷だったという。
ちょうどそのころ同僚の一人がアメ車の単独事故で瀕死の重傷、もう一人は韓国車で対向車と衝突しこれまた重傷を負った。それ以来“ボルボ神話”が私に取り憑いた。
日本では今「軽自動車ブーム」が起きている国内販売の半数以上、保有台数の4割以上が軽自動車だという。それはそうだろう。上がったとはいえ税金も保険料も安い。何より燃費も少なくて済む。一家で二台が当たり前の地方都市では「軽」の普及率はうなぎ昇りだそうだ。
でも、気になるのはボルボとは対照的に車が「弱い」ことだ。買い物の自転車代わりならいいが、ちょっと遠くへ出かけようとするとトラックや大型バスなど“巨大”な相手といっしょに走る羽目になる。高速道路でそんな光景を目にすると、人ごとながら心配になる。
調べてみると思った通りだった。「軽」が関係した自動車事故のうち25%程度が死亡や重傷につながり、「その他の乗用車」の5%程度に比べて大きな開きがある。
自動車同士の死亡事故で調べてみると、ある調査では、「軽」で死亡する割合は「その他乗用車」の1・3倍にもなるという。「軽」は経済的だし、環境にもやさしいが「命の危険と隣り合わせ」という落とし穴がある。
保険は事が起こることを想定し安心を届けてくれるが、それよりも事を起こさない「強さ」があったほうがいい。事故で死んでしまえばおしまいだからだ。
といっても車がいくら強くても、運転ミスをする人がいるから、やはり保険の話は一筋縄ではいかない。