保険用語で考えてみませんか?

愛知学院大学教授 田畑康人

  

 獨協大学の岡村教授も以前このコラムで述べていましたが、昨今の大学は本当に忙しくなりました。敬老の日も体育の日も勤労感謝の日も講義があります。これでは学生から抗議が来そうですが、今の学生は祝日でも静かにおとなしく(?)出席してくれます。

 そして秋学期は私の損害保険論の講義も始まりました。そこで最初に出てくる専門用語が「被保険利益」、insurabel interestの訳語です。学生たちはこの英語がなぜ「被保険利益」と訳されるのか、素朴な疑問を感じています。私も学生時代はそうでした。しかし権威ある教授が「こういう訳語が定着している」と言えば従うしかありませんでしたが、私にはとてもそんな権威も学識もありません。

 でも考えてみると、福沢諭吉はいうまでもなく、明治の研究者・学者は本当に偉いと思います。内容的には十分に理解できていない言葉を何とか日本語に訳し、意味が通じるように努力してくれました。福沢がBook Keepingを「帳合いの法」、そしてその発音から「簿記」と訳したのは傑作のひとつかもしれません。それに引きかえ最近のコンピュータやIT用語は意味不明のカタカナ英語が氾濫しています。あれで日本人は理解できるのが不思議でならないのは私だけかもしれませんが・・・。

 話を戻しましょう。保険用語、riskはリスクまたは「危険」と訳されます。では、リスク=「危険」ですか?moral hazardはモラルハザードまたは「道徳的危険」と訳され、最近では「倫理の欠如」という訳語で一般化されています。保険実務では道徳的危険を「モラルリスク」ともいうそうです。では、riskhazardは同じ意味ですか。モラルリスクは保険業界の和製英語だそうですね。「担保危険」の原語はperils coveredでした。では、risk=hazard=perilですか?

 保険実務の専門家でもこれらの用語を区別するのが大変です。でも、現在は「リスク」という日本語(?)があふれかえっています。そして多くの日本人が「リスク」と言われると、わかったような気持ちになっているようにみえるのです。

 でも、「リスク」って何ですか?たばこの発がん性に関する「危険」は「喫煙リスク」ではなく、医学・薬学分野ではsmoking hazardと言うそうです。保険はリスク(risk)に対処する制度として発展してきました。このあたりで、そしてこの時期にリスクや危険について自分の中で再検討してみると何かが新たに見えてくるかもしれません。地震はrisk? peril? hazard?それともdangerですか?

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