常務理事
上田進朗
気の置けない同期入社仲間の会合で、『保険販売が問題で破綻した保険会社は無いが、資産運用に失敗して破綻した会社は、古今東西数多ある。』とい言葉が話題になりました。
筆者自身も若き融資担当者の頃、当学会の常務理事であられた担当役員から直接伺ったことがあり、責任の大きさを痛感した経験があります。
早速、資産運用部門が長かった一人が『正に、その通り。』と頷きました。
そこに、商品開発と現地支社で販売政策管理を経験したもう一人が、『いや、それだけではない。販売政策に問題があれば会社は破綻する。いくら現地で売れるから、売りやすいからと言って予定利率の高い商品や、保険数理を無視して保険料を安くした商品を売るような安易な販売政策をとれば破綻する。このことは、十数年以上前に我々が経験したことではないか。』と応じました。
更に話は、『自動車業界の製販分離と再統合の是非と保険会社の製販分離』や、『現場の声は無視してはならないが、安易な現場の政策要求には屈するべきではない。』と、あらぬ方向に盛り上がることになりました。
他愛のない酒席の上の談論といえばそれまでですが、この議論は、昨今マスコミを賑わせた『生保の保険料の値上げ・値下げ横並び脱却』問題にも関連しているように思われてなりません。
もとより保険会社の使命は、お客様から保険料をお預かりして所定の保険金を確実にお支払いすることで、保険という制度を長期間、堅実・確実に継続することです。
そのためにも、『保険という総合科学―独協大学岡村教授の表現』を、保険数理を始めとして、『収支相等』『給付反対給付均等』等の原理・原則に従って運営していかなければなりません。
これからの少子高齢化という厳しい環境下では、保険会社には資産運用のALMだけでなく、常に全体バランスを意識した販売政策、商品政策が求められると思います。
今後も敢えて、ある種の商品の販売を抑制したり、横並び保険料の変更を実行することも必要になることでしょう。
これらの手法として、今まで以上にアクチュアリー(保険数理人)やその思考法の重要性が増すものと考えています。
筆者は、巷に膾炙されている『保険会社がリスクを取って経営をしている。』とか『保険とは、会社と加入者がリスクの賭けをすること。』という表現に違和感を覚える者です。
昔、賭け事の好きな数理担当者を、彼は『アクチュアリー』ではなく『バクチュアリー』だと揶揄していました。
今こそ『アクチュアリー』は『バクチュアリー』であってはなりません。