慶應義塾大学メディアセンター(図書館)の過去・現在・未来

 

慶應義塾大学三田メディアセンター

レファレンス/スペシャルコレクション担当課長

保坂睦

 

 2015年10月に、慶應義塾保険学会と慶應義塾図書館が共催した展示「福澤諭吉と日本の保険業」は、一部の方々の記憶に新しいかもしれません[1]。約1か月間の展示期間中、4,500名以上の方にご覧いただき、好評を博しました。福澤諭吉と保険との深い関係はもはや言を俟ちません。福澤がその著作『西洋事情』や『西洋旅案内』【写真1】で紹介した保険制度の概念は、明治以降の日本社会に大きな影響をもたらしました。

 

   

【写真1】『西洋旅案内』表紙と「災難請合の事」を記載したページ

 

 ところで福澤は、3度にわたる欧米諸国への渡航を通じ、辞典をはじめとした数十冊の洋書(英文)を持ち帰っています。そうした洋書類は、教員や学生によって利用されてきました。1912(明治45)年になって、慶應義塾が1907(明治40年に創立50周年を迎えたことを記念し、「図書館」が開館しました。これが現在の三田キャンパスにある「慶應義塾図書館旧館」(以降、旧館【写真2】)です。福澤が持ち帰った資料の一部はいまだに蔵書として図書館の書架に並んでいます。

 

【写真2】 慶應義塾図書館旧館 2016.12

 

 2018年現在の慶應義塾大学は、三田をはじめ日吉・信濃町・理工学・湘南藤沢・芝共立の6キャンパスを擁し、それぞれメディアセンター(図書館)を設置しています。全塾で約500万冊の蔵書を基礎としつつ、電子ブックや電子ジャーナル、各種の学術情報データベース類も多く契約し、総合的な領域を横断する慶應義塾大学の学習・研究を支援しています。

 

 塾員(卒業生)の方は、「塾員入館券」(1,000円/年度)をお申込みいただくことで、年間を通じて入館し、蔵書を閲覧することができます。全塾の蔵書をほぼ制限なく利用できることは、塾員ならではの特権といえるかもしれません。各メディアセンターによって受けられるサービスは異なりますが、三田メディアセンターでは、電子ジャーナルの閲覧サービス(有料)も提供しています。

 

 一方で、一般の方がメディアセンターを利用する際には、他の大学図書館や公共図書館が発行する紹介状が必要となるなど、やや制限があります。しかしたとえば、湘南藤沢メディアセンターでは、藤沢市図書館と協定を結び、利用券を持つ市民に蔵書の貸出を行うなどのサービスを行っています。三田メディアセンターでは、特定の蔵書を閲覧したいといった明確なご要望にはお応えしていますので、そうした場合には最寄りの図書館(あるいはご所属の機関にある図書室等)にご相談ください。研究内容によっては、貴重書等の資料にも直接アクセスしていただけます。入館や資料の利用についての詳細は、各メディアセンターのウェブサイトをご確認ください。[2]

 

 歴史的な資料を数多く所蔵している三田メディアセンターでは、その特性を生かし、冒頭でご紹介した保険関連の展示を含め、多岐にわたるテーマでの展示を随時企画しています。毎年秋には、丸善丸の内本店のギャラリーにて大規模な貴重書展示会(入場無料)を行っており[3]、2017年度は、「古文書コレクションの源流探検」とのタイトルで、中世から近世にかけての有名武将の文書類を展示しました【写真3】。また初の試みとして、ギャラリートークの動画[4]を公開しました。2018年度は15世紀ヨーロッパで刊行された初期印刷本(インキュナブラ)をテーマとした展示を企画中です。

 

【写真3】貴重書展示会光景(2017.10)

 

 貴重書や蔵書で歴史を振り返る展示企画と並行し、大学の知を未来へ守り伝えるための新しい動きも始まっています。

 

 旧館の建物は、関東大震災や東京大空襲といった災難をなんとか潜り抜けたのち、1969年に国の重要文化財に指定されました。1982年に開館した新館(現・図書館)とともに、義塾の学問を支えてきましたが、老朽化が進行し、今後起こりうる大きな地震に耐えられる保証はありません。そのため、2017年2月より旧館の耐震補強・改修工事が開始されました[5]。この工事では、免震構造の設置に加え、劣化部分の保存修理などが行われており、2019年度の完了を予定しています。なお2017年12月に、BSジャパンにて工事に関する特集番組が放映されました[6]。

 

 建物や設備といったハードウェアとともに、蔵書を提供するためのシステムやサービスも更新していかなければなりません。2017年5月、慶應義塾大学メディアセンターと早稲田大学図書館は、図書館システムの共同運用に向けた覚書を締結しました[7]。1986年から相互利用の協定を結び、緊密な関係を保ってきた両大学は、運用の安定化とコスト削減に加え、相互利用の促進により利便性の向上を目指しています。別法人の大学図書館同士が、手を組んでシステム運用を行うのは日本で初めてのことでもあり、内外から今後の動向が注目されています。

 

 大学図書館を過去から未来へむけて継続的に維持していくためには、現在の着実な歩みと、大学をとりまく社中(関係者)の協力が不可欠です。慶應義塾保険学会に所属する皆様には、義塾のメディアセンターを存分にご活用いただくとともに、変わらぬご支援をお願いいたします。

 


[1] 第322回企画展示「福澤諭吉と日本の保険業」(2015/9/28~10/31)パンフレット

 

[2] 慶應義塾大学メディアセンター(図書館):

 塾員の方へ

 学外の方へ

 

[3] 貴重書展示会

 

[4] 29回慶應義塾図書館貴重書展示会「古文書コレクションの源流探検-反町十郎、反町茂雄、木島誠三、木島櫻谷、そして…」ギャラリートーク(2017/10/9)

 

[5] 「図書館旧館の改修工事」塾, No.289, p.1, Winter 2016.

 

[6]  BSJapan「地震から守れ!ニッポンの建築遺産」ダイジェスト版(2017/12/23)

 

[7] 早稲田大学図書館・慶應義塾大学メディアセンター

日本初・図書館システムの大学間共同運用に向けた覚書締結(2017/5/16)

 

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