アクサ生命保険株式会社
戦略プログラムオフィス マネジャー 井上由美子
働き方改革も後押しとなり、各企業のテレワーク利用開始も以前ほどニュースにはならなくなったと思う。保険業界でもすでに、利用拡大に踏み切る会社もあれば、本格的導入にむけては、様々な工夫と準備が必要と十分な時間をかけている会社もあろう。
テレワークは、テレ(遠隔)とワーク(仕事)を組み合わせた造語で、定義は在宅勤務より広い。現勤務先では在宅勤務を導入しており、およそオフィスに滞在しているときと同じ作業を行うことができ、私もその恩恵を得てすでに2年になる。保険人に参考になるようにと念じながら、良い点と工夫が必要な点について述べてみたい。
在宅勤務の良い点。
通勤がない。
数年前の調査データでは、東京都に勤務する会社員の平均通勤時間は58分。在宅勤務にすれば、往復で約2時間の時間が手に入る。年間で約500時間超の通勤に費やしていた時間が自分のものになる。通勤がないことを喜ぶユーザーは多い。浮いた時間をどう使うかは利用者の意識によるところが多く、私の場合には家族と夕食を楽しむ機会が増えた。
服装が自由
スーツを着る必要がないし、カジュアルで着心地のよい服ですぐに業務開始できる。女性にとっては化粧の必要もない。ただしビデオ会議のときなどは要注意だ。勤務先ではビデオ映像の利用も可能だ。私はビデオ映像までは掲載は遠慮したく、自分の写真を静止で出している。
集中できる
基本的に一人在宅は集中できる。集中を持続できれば、通常こなしている業務もよりスピードアップが期待できる。
働く意識改革
より効率的に働こう、とする意識が生まれたのは発見だった。在宅勤務者で同じような感想を持つ同僚は多い。一人で仕事をするという独特の緊張感から生まれる行動変化かと思う。
業務内容を棚卸する機会
これは個人的には多くを期待したい点である。理想論かもしれないが、在宅勤務では、自分がすべき仕事の優先順位を見極めてゆくことがより一層求められる。オフィスにいるときよりもずっと自分の時間をうまく組み立てて、仕事をはめ込んでゆくので、仕事をこなす時間を予測し、スケジュールし、実績をあげてゆくことができる期待がある。
一方実施する場合に念頭におきたい点もある。
運動不足
在宅勤務していると歩く必要がほとんどなく、運動不足を引き起こしそうだ。自宅にこもっているようでは、1日せいぜい数百歩しか歩かないので、運動を心がける必要がある。在宅して時間ができたら体調不良となるようでは、本末転倒である。
集中が持続できない
集中できるはずの在宅勤務が、案外そうでもないケースもある。在宅勤務に困難を感じる社員からまず出されるコメントと思ってもよいかもしれない。例をあげると、家族が在宅している、小さなお子さんがいる、ペットを飼っている、など。在宅勤務者が十分に業務に集中できない場合には、思考が中断し、生産性の低下となる。集中できる精神力を鍛える必要がある。家族の理解と協力も必須である。
仕事場所が確保できない
自宅には業務に適切なスペースがないケースがある。この場合にはセキュリティに配慮しつつ、公共のスペースやサテライトオフィスなどを利用できるようになると、この課題は解決できるかもしれない。
時間管理
在宅勤務は長時間労働を増長させる、という意見もある。業務量を自己管理しにくい環境にあって、いつでもコンピューターでつながることができると、結果として業務に従事する時間が増加することになるらしい。常にメールが見られることができても、適切な時間管理を行えるバランスのとれた業務スタイルに変えたいものだ。
対面不足
難しい案件対応、緊急な意思決定、人事考課面談、お客様との打ち合わせなど、対面のほうがスムーズなことも様々ある。また、会議の司会者であるときのむずかしさを挙げる在宅者も多い。相手の発するノンバーバルサインを受け取れないことに不安を覚えるようだ。YES・NOをはっきり言えないことや、なかなかストレートに意見をだせない事情があるケースなども課題となる。
管理職の不安
自分の近くに部下やチームがいることに慣れているマネジメントスタイルの管理職の場合、意識改革が必要かもしれない。業務をするスタッフのみならず、管理職も変化しなくてはならない。相互信頼関係を結び、かつ進捗や結果を共有する。管理職側が、自分のスタッフが目の前にいないと管理できない、という意識があることも在宅勤務実現を難しくするかもしれない。
以上、筆者の体験からのポイントである。すべて網羅しているとはいえないが、共感いただけるような内容があっただろうか。
昨2016年11月には総務省による「テレワーク先駆者百選」があり、総務大臣賞は明治安田生命に送られた。また、本2017年7月には政府の呼びかけによる「テレワーク・ディ」が実施された。筆者の勤務先も含めて複数の保険会社の参画もあり、保険業界も働き方の多様化に積極的である。もちろんすでに述べたように、面談が重要となる業務など、在宅勤務になかなかなじまない業務はあるが、働き方改革の一翼に保険会社の積極的な参画があるのを見つけるにつけ、保険人の一員として大変うれしく思う。