慶應義塾と保険事業は、歴史的に深い関わりもっています。近代的保険は、塾祖福澤諭吉の著書「西洋旅案内」(1867)の中で、初めて日本に紹介 されました。福澤諭吉は、その後も多くの著作活動の中で、国家経済の発展と国民生活の安定を図る上で、保険が重要な役割を担うべきであることを強く説いて います。爾来、小泉信吉、荘田平五郎、阿部泰蔵、早矢仕有的ら、福澤精神を受け継いだ多くの門下生が、保険会社の設立に賛同参画し、その後の保険事業の礎 を築く上で大きな役割を果たしました。
こうした中で、慶應義塾保険学会は、戦後復興期に保険事業が立ち直りの兆しを見せかけた1952(昭和27)年7月2日に、園乾治教授(当時)を中心に設 立された、他には類例のない学会組織です。設立趣意書には、「我等有志相図り、慶應義塾保険学会を設立する所以は内外の時勢に鑑み、保険業界並に学会にあ る塾員塾生相結び、提携を緊密にし、学理の研究を深作し、実務の向上進歩を図り、微力を傾注して先人の偉業を継ぎ、義塾の斯界における伝統に光輝を副えん とするものである」とあり、保険業の復興発展に対して並々ならぬ熱意を注いだことが窺えます。
そして、慶應義塾卒業生を中心とした有志が、産学協同の理念の下、学理と実務の相互発展を目指しました。その後、理事長が庭田範秋教授(現名誉教授)に引 き継がれると、活動範囲は一層拡大し、その成果は高い社会的評価を受けつつ、今日に至っております。会員の多くは、塾員で構成されていますが、塾外の参加 者もこのところ次第に増えてきています。現在、年5回の講演会・研究会ならびに年1回の機関誌「保険研究」の発行を行っており、会員相互の親睦を図りつつ 着実な活動を続けています。
慶應義塾保険学会は、学会設立以来の理念を尊重しながら、多様かつ複雑な様相を呈している保険現象について理論的・実証的研究を行うことで、今後とも、保険の健全な発展に向けて貢献したいと思います。
慶應義塾保険学会理事長
堀 田 一 吉